1枚目の写真はイタリア・アンコナの写真です。アンコナはマルケ州アンコナ県の県都で、アドリア海に面した港町です。港からは対岸のクロアチアやギリシャへの客船も出航しています。アンコナ港から丘を上り中心街の大通りを南東に抜けるとそこは丘の終点で断崖になっていて、前面には広大なアドリア海が広がっていました。
崖を降りてみると、色とりどりの木製の観音扉が海岸線に沿って数え切れないくらい並んでいました。その扉の中はそのひとつひとつがトンネル状の穴になっていて、舟が納まり、扉を開きそのまま前進すると入水できるような、非常にシンプルでダイレクトな構造になっていました。
2枚目はブータン・パロのタクツァン僧院の写真です。そこはチベット密教最大の聖地といわれ、断崖絶壁のすごい場所(標高3100m)にありました。遠くから眺めていた時もすごい場所だなあと思っていましたが、近くで見たときの方がそのリアルな地形を目の当たりにし、より、そう実感したのを覚えています。
アンコナで観音扉の列を見たときは「何だ?何だ?」という感じで、街を散歩しているときに新しいものを発見した時のような身近な感覚でしたが、タクツァン僧院では(チベット密教のことを少し頭から外せば)、「えーっ!おーっ!何でここに!」という感じで圧倒され、その印象は全く違ったものでした。
両者に共通している点は自然と人が向き合っていること、そして自然との関わりの上に建築が成り立っているということだと思います。そしてこのことは自然と人との関わりに建築の出発点があることを教えてくれているように感じました。